人間の簡単は、コンピュータの難題?:モラベックのパラドックス
私たち人間は、複雑な数学の問題を解こうとすると、頭を抱えてしまうことがあります。難しい数式や概念を理解するには、大変な努力が必要です。一方、日常生活で行っている歩く、走る、ボールを投げるといった動作は、ほとんど意識することなく自然と行うことができます。生まれたばかりの赤ちゃんでも、いつの間にか歩き出すように、人間にとって身体を動かすことはごく当たり前のことです。
しかし、コンピュータにとっては、この状況が逆転します。コンピュータは、高度な計算や複雑なルールを持つチェスのようなゲームにおいては、人間をはるかに凌駕する能力を発揮します。膨大なデータを高速で処理し、論理的な思考に基づいて最適な答えを導き出すことが得意だからです。しかし、人間にとっては簡単な身体動作や感覚的なタスクは、コンピュータにとって非常に難しい課題となります。例えば、ロボットに歩く動作をさせるためには、複雑なプログラムとセンサーが必要であり、それでも転倒してしまうこともしばしばです。これは、私たち人間が無意識に行っている動作の中に、実は非常に複雑な計算や処理が含まれていることを示しています。
このように、人間とコンピュータでは、得意とする分野が逆転するというパラドックスが存在します。これは、人間の脳とコンピュータの構造や処理方法が根本的に異なることに起因しています。人間は、長年の進化の過程で、身体動作や感覚処理に特化した脳を築き上げてきました。一方、コンピュータは、論理演算や記号処理に特化した設計がされています。そのため、お互いに得意な分野と苦手な分野がはっきりと分かれるのです。