エキスパートシステムと医療診断:マイシンの影響
コンピュータに専門家のように考えさせ、問題を解決させようという試みから、エキスパートシステムは生まれました。これは、特定の分野における熟練者の知識や経験をプログラムに組み込むことで、その道のプロのように判断し、助言を提供できるようにすることを目指した技術です。人間だけが持つと思われていた高度な知的処理を機械で実現しようとしたこの試みは、人工知能研究の黎明期における大きな挑戦の一つでした。
エキスパートシステムは、専門家の知識を「ルール」という形で表現し、コンピュータに理解させます。例えば、「もし熱が38度以上あれば、インフルエンザの可能性があります」といった具合です。そして、利用者からの質問に対して、蓄積されたルールを元に推論を進め、最も適切と思われる答えを導き出します。
初期のエキスパートシステムは、医療診断や化学分析など、限られた分野では一定の成果を収めました。しかし、専門家の知識を網羅的にルール化することの難しさや、状況の変化に対応できないなどの限界も明らかになりました。それでも、エキスパートシステムの開発は、コンピュータに高度な知的処理をさせようという試みの先駆けとなり、後の機械学習や深層学習といった技術の発展に大きな影響を与えました。