事業の鍵となる「限定提供データ」とは

事業の鍵となる「限定提供データ」とは

共同で利用されるデータの課題

今日では、多くの企業が提携して事業を行うことが増え、企業同士が情報を共有する機会も多くなっています。しかし、共同で利用するデータが増える一方で、守るべき企業秘密をどのように守るのかという課題も浮上しています。
かつては、企業秘密といえば、社外秘の書類や顧客情報などをイメージすることが一般的でした。しかし、企業間の共同研究や複数の企業が参加する事業を行う場合、データを共有する機会が増え、従来の考え方では対応しきれなくなってきています。
例えば、共同研究において画期的な技術を生み出すために、複数の企業がそれぞれのデータを出し合って分析する場合を考えてみましょう。この時、各企業のデータは、単独では決して公開されることのない貴重な情報です。しかし、共同研究というオープンな環境下では、データが外部に漏洩してしまうリスクは高まります。
また、仮に厳重なセキュリティ対策を施してデータの漏洩を防いだとしても、共同研究の成果として発表される情報の中に、間接的に企業秘密に関わる内容が含まれてしまう可能性も否定できません。このように、共同で利用されるデータは、従来の企業秘密の保護の枠組みでは十分に対応できない側面があり、新たな対策が求められています。

不正競争防止法における「限定提供データ」

近年、ビジネスのデジタル化が進むにつれて、顧客情報や取引データといった企業が保有する情報そのものが重要な価値を持つようになってきました。しかし、従来の不正競争防止法では、これらの情報を営業秘密として保護するには、秘密管理性の要件が厳しく、十分に保護できないケースも少なくありませんでした。

このような課題に対応するため、不正競争防止法では「限定提供データ」という概念が導入されました。これは、営業秘密として保護が難しい場合でも、一定の条件を満たせば、不正な取得や利用から保護されるというものです。具体的には、①秘密ではないが、公然と知られていないこと、②不正な手段で取得されないよう対策を講じていること、③提供を受ける者との間で秘密保持契約を結んでいること、といった要件を満たすデータが該当します。

限定提供データは、顧客リストや販売データ、マーケティング戦略など、企業の競争力を左右する重要な情報を保護する上で有効な手段となりえます。この制度を適切に活用することで、企業は自社の貴重な情報を守り、健全な競争環境を維持していくことが可能になるでしょう。

保護を受けるための３つの条件

あるデータが「限定提供データ」として保護を受けるには、「限定提供性」「相当蓄積性」「電磁的管理性」の３つの条件を満たす必要があります。

まず、「限定提供性」とは、そのデータが不特定多数ではなく、提供を受ける相手方を特定した上で、契約等によって提供を制限していることを意味します。誰でも簡単に入手できるようなデータは、限定提供データには該当しません。

次に、「相当蓄積性」とは、データが、単に収集したものではなく、事業活動の中で、時間や費用、労力をかけて集められ、整理・分析されたものであることを示します。簡単に作成できるデータやありふれたデータではなく、事業者の努力によって蓄積されたデータであるという点が重要になります。

最後に、「電磁的管理性」とは、データが不正アクセスや漏洩、滅失などのリスクから保護されるよう、アクセス制限や暗号化などの適切な方法で、コンピュータを用いて管理されていることを意味します。データのセキュリティを確保するための対策がしっかりと講じられていることが求められます。

限定提供データの保護範囲

– 限定提供データの保護範囲企業が事業活動を行う上で、独自の技術情報や顧客情報など、競争優位を築くために重要な情報は数多く存在します。こうした情報は、厳格に保護されなければ、競合他社に不正な手段で取得され、事業活動に大きな支障をきたす可能性があります。このような重要な情報を保護するために、不正競争防止法では、「限定提供データ」という概念を導入し、その不正な取得、使用、開示などを禁止しています。では、具体的にどのような情報が「限定提供データ」として保護されるのでしょうか？不正競争防止法では、以下の３つの条件を全て満たす情報が「限定提供データ」として定義されています。* 秘密情報であることこれは、当該情報が公然と知られておらず、また、容易に取得できないものであることを意味します。例えば、厳重なセキュリティ対策が施されたサーバーに保管されている技術情報や、アクセス制限をかけている顧客情報などが該当します。* 有用な技術上または営業上の情報であることこれは、当該情報が、事業活動において役立つ技術やノウハウ、顧客に関する情報などを含んでいることを意味します。例えば、新製品の設計図や製造方法、顧客リストや購買履歴などが該当します。* 提供者と提供を受ける者の間で、秘密保持義務が課されていることこれは、当該情報が、守秘契約などによって、提供を受ける側が秘密を守ることが義務付けられていることを意味します。口約束だけでは十分ではなく、書面による契約などが求められます。これらの要件を満たす限定提供データは、不正な取得、使用、開示等の行為から保護されます。具体的には、不正な手段による取得や、秘密保持義務違反といった行為が禁止されます。不正競争防止法は、企業にとって重要な情報を保護するための強力な法的枠組みを提供しています。企業は、自社の保有する情報が「限定提供データ」に該当するか否かを適切に判断し、必要かつ十分な保護対策を講じる必要があります。

企業における対応の重要性

昨今、技術革新が急速に進む中で、企業間の共同研究やデータ連携が活発化しています。こうした取り組みは、新たなイノベーションを生み出すための重要な鍵となりますが、同時に、取り扱うデータの機密性についても、これまで以上に慎重な配慮が求められます。

企業は、共同研究やデータ連携を行うにあたり、まず、提供するデータが「限定提供データ」に該当するかどうかを注意深く見極める必要があります。これは、自社の重要な情報資産を保護するために不可欠なプロセスと言えるでしょう。もし該当する場合には、関係法令やガイドラインに基づき、適切な契約を締結し、厳格な管理体制を構築することが求められます。

具体的には、データの提供範囲を明確に定め、提供先における利用目的を制限することが重要です。また、情報の漏えいを防ぐため、秘密保持契約を締結し、取り扱う担当者を限定するなどの対策も必要となります。さらに、技術的な側面からも、アクセス制限やログ管理といったセキュリティ対策を徹底し、不正アクセスや情報の持ち出しを防止しなければなりません。

こうした対応を適切に行うことで、企業は、貴重なデータを外部からの脅威から守りながら、安全なデータ共有を実現できるようになります。これは、企業が競争優位性を維持し、持続的な成長を遂げていく上で、極めて重要な取り組みと言えるでしょう。